オートラジオグラフで見えた黒い点――可視化される放射性物質http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/?tag=%E6%A3%AE%E6%95%8F
福島県飯舘村前田で採取されたキビタキの死体。(写真提供/森敏) |
東京電力福島第一原発事故から一年余り。放射能汚染はどこまで広がっているのか、生態系への影響はどうなっているのか、さまざまな不安が日本全体を覆っている。そんな中、森敏教授(東京大学大学院農学生命科学研究科)の研究により、動物への放射能汚染が明らかになった。
小鳥のレントゲン写真(左下)のようだが、これはオートラジオグラフという。森教授の協力を得て放射能汚染の実態を可視化したものだ。オートラジオグラフとは放射線に感光する特殊なイメージングプレートに試料を載せ映像化する。この写真は小鳥を一カ月間イメージングプレートに放置した。
昨年末、福島県飯舘村前田で採取したキビタキの死体だ。腹部が全体的に黒いのは放射性物質が付着した植物を昆虫が食べ、その昆虫を小鳥が食べた結果ではないか。食物連鎖によって濃縮して蓄積されることを示している。羽にある黒い点は空気中に浮遊した放射性物質が羽に付着したと思われる。
森教授によれば「事故当初はヨウ素131が大量にあったのだがサンプル採集時にはほとんど消えてしまっている。セシウム137やセシウム134、さらに放射性銀(銀110m)、テルルなど福島第一原発から飛んできた放射性物質が出す放射線によって感光したものだ」という。
森教授はタンポポ、ヨモギなどの植物もオートラジオグラフで映像化している。茎や葉脈には土から放射性物質が吸い上げられ、葉には空気中に浮遊していた放射性チリが付着した。これらの映像は、目に見えない放射性物質を可視化することで、その危険性を伝える一つの方法だ。
(森住卓・フォトジャーナリスト、6月1日号)
森敏教授(東京大学大学院農学生命科学研究科/NPO「WINEP」の代表)のブログから
●WINEPブログ
アキノキリンソウの全身放射能汚染 2012-07-31
http://moribin.blog114.fc2.com/blog-entry-1517.html
下図は昨年耕作放棄水田で採取したアキノキリンソウのオートラジオグラフである。この田んぼの土壌の表面の放射線量は約8マイクロシーベルト/hrであった。
葉も茎も花も一見均質に放射能汚染している様に見える。小生は現地で採取した各種の植物を押し葉にしてオートラジオグラフを作成しているが、これまでの経験では、これほど見事に全身汚染を示した植物はない。
下図左の花の部分のオートラジオグラフの拡大(黒く染まった部分が放射能の存在を示している)
上図のオートラジオグラフの、非常に濃厚な大小の点々は、汚染土壌のホコリなどの外部汚染であるが、他は、根が土壌から吸収した放射能による内部汚染である。昨年の3月の東電福島原発の爆発当時は、この植物はまだ芽も出ていなかったはずである。
なぜこの植物ではこんなに濃く放射能が体内分布しているのだろうか?
表1.放射性セシウム(Cs-137)の分布
アキノキリンソウ Cs-137Bq/kg
茎 1801
葉 3640
花 25014
思うにアキノキリンソウは、根が土壌表層に浅く密集している。であるから、根が土壌の表層の浅い処に分布している放射性セシウムに接触する機会が多いのではないだろうか。
それと、この植物は根から地上部への放射性セシウムの移行性が良いのではないのだろうか。学問的にはどのトランスポーター(膜輸送体)を使って、根の導管にセシウムを排出しているか興味のあるところである。
茎、葉、花と上に行くにつれて乾物重当たりの放射能濃度が高くなっている。ここで云う花は萼・花弁・雄しべ、雌しべなどの総合した部分であるが、茎の10倍以上の濃度である。このように新生組織が示す濃い放射能分布パターンはカリウム(K-42)やリン(P-32)で実験した場合のパターンに似ている。
花粉を測っているわけではないが花粉はここで云う花と同等の濃度だと思われるので、今年の秋には花粉は要注意だと思う。
(森敏)
追記:アキノキリンソウではなくセイタカアワダチソウではないか?という疑問が寄せられていますが、それについてはコメント欄をお読みください。植物分類学の牧野富太郎先生も両者を峻別できていないようです。
セイタカアワダチソウだ。
「アキノキリンソウ」Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AD%E3%83%8E%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%82%A6
「セイタカアワダチソウ」Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%82%A2%E3%83%AF%E3%83%80%E3%83%81%E3%82%BD%E3%82%A6
●ヒノキの放射能被爆像 2012-05-24
http://moribin.blog114.fc2.com/blog-entry-1474.html
このヒノキの写真は昨年飯舘村小宮地区で育林されているものを昨年の秋に撮影したものである。そこから手に届く高さの葉と雌果をとってきた。
これに関しては、一部をすでにWINEPブログで報告しておいた。
2011/12/18 : スギとヒノキの今年の雌果種子へのCs-137の転流を確認した:これからは、あらゆる植生の奇形化が予想される
今回はその後の追加情報としてヒノキの各組織が含有する放射線の数値ばかりでなく葉のラジオオートグラフ像を示したい。
写真1 立派に手入れしたヒノキ
写真2 ヒノキの種子(直径約2ミリ)
写真3 室温放置で弾(はじ)けさせた後のヒノキの雌果(直径約1センチ)
放射能を簡易測定すると種子は以下の表1のように、Cs-137で約一万ベクレル/kgという高い線量を検出した。Cs-134はこの7割あるはずであるから、総線量でセシウムは1万7千ベクレル/kgはあるはずである。表1の葉の放射能の約7分の一の濃度である。雌果が葉の軸についているときは種子は雌果の中に入っており、外部からの放射性ホコリなどの被爆はほとんどないはずである。だから、ここで示す種子の放射能のほぼ全部が、セシウム被爆した葉か、樹皮から転流してきたものと思われる。
表1 ヒノキの成分の放射能
ヒノキ Cs-137 (Bq/kg)
種子 10709
雌果の殻 37639
葉 74610
葉の軸 166093
それにしても写真4のように葉を押し葉にしてオートラジオグラフを撮ってみて、我ながら、葉や葉の軸にまんべんなく放射能でまぶされているヒノキに、同情を禁じ得なかった。 この被爆イメージは数値情報だけでは決してわからない。
この種子は、本来ならば、雌果からはじけ飛んで、地上で、種子自らが抱え込んだ放射能による内部被爆と、このあたりの環境放射能(数マイクロシーベルト/hr)による外部被爆で、自らの胚芽の染色体を傷つけながら、発芽期を迎えて、細胞分裂を行うはずであったわけである。
生物学研究者ならば、染色体障害による発芽阻害、たとえ発芽してもその後の形態の奇形化などを想像するのが当たり前だろう。動物で云えば、流産、死産、奇形、免疫低下の虚弱体質等々である。チェリノブイリでは多くの奇形化した枝葉が見いだされていることはすでに上記のブログで報告しておいた。
写真4 次の写真5に用いたヒノキの押し葉
写真5 BASで撮影したオートラジオグラフ。全身が放射性降下物(フォールアウト)でまんべんなくまぶされて被爆していることがわかる。
(森敏)
付記: BASによる現像は中西啓仁(ひろみ)・特任準教授(東京大学農学生命科学研究科)によるものです。
数値より分かり易い。
●農林水産省 林野庁樹木の放射性セシウム濃度の調査結果について平成24年8月9日
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/mokusan/120809_1.html
樹木の放射性セシウム濃度等の調査結果(詳細版)
調査樹種:アカマツ、スギ
調査日:24年3月19日~23日
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/mokusan/pdf/120809_1-01.pdf
スギ雄花に含まれる放射性セシウムの濃度の調査結果について平成24年2月8日
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/120208.html
スギの雄花や花粉等に含まれる放射性セシウムの濃度
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/pdf/120208-02.pdf
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/mokusan/120809_1.html
樹木の放射性セシウム濃度等の調査結果(詳細版)
調査樹種:アカマツ、スギ
調査日:24年3月19日~23日
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/mokusan/pdf/120809_1-01.pdf
スギ雄花に含まれる放射性セシウムの濃度の調査結果について平成24年2月8日
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/120208.html
スギの雄花や花粉等に含まれる放射性セシウムの濃度
http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/pdf/120208-02.pdf